まとわりつくような日本の夏の湿気と、どこか満たされない気だるい午後の静寂。結婚して数年、夫と一人息子・たかしに囲まれた未奈の日常は、平穏という名の檻の中でゆっくりと乾いていた。しかし、あの日、市民プールのツンとした塩素の匂いと共に、その渇きは致命的な「熱」へと変わる。
息子の忘れ物を届けた先で視線を奪ったのは、水泳コーチのユウタだった。競泳水着から浮き出る若々しい筋肉の隆起、日に焼けた肌の上を滑り落ちる水滴――その眩しさが、未奈の奥底で眠っていた「雌」の衝動を無遠慮に、そして乱暴に刺激した。
数日後の再会は、偶然か、それとも必然か。「ウチでご飯食べて行かない?」その誘いは、もはや食事への招待ではなかった。乾いた薪に火を放つような、破滅への合図だった。
息子がプールで無邪気に水をかくその時間、未奈は聖域であるはずの自宅のリビングで、若い雄の情熱に溺れていく。夫以外の男を受け入れる強烈な背徳感、若い肌が汗で吸着し合う卑猥な音、そして鼻腔をくすぐる甘く危険なオスの匂い。
「ダメ……たかしが帰ってきちゃう……」
口では弱々しく拒みながらも、身体は正直に楔を求め、シーツを涙と蜜で汚していく。理性が焼き切れるほどの快感に、母という殻は容易く溶け落ち、ただの欲情する「女」へと堕ちていく未奈。ひと夏の過ちは、やがて誰も止めることのできない、泥沼の愛欲劇へと変貌していった。

