部屋の空気が、これほどまでに濃密で、むせ返るような湿気を帯びるとは思いもしなかった。
本来ならば、この扉の向こうにある日常——夫のために夕食の支度をし、貞淑な妻として振る舞う時間——が待っているはずだった。だが今、私の視界を支配しているのは、今日初めて肌を合わせた男の、獲物をねめ回すような暗い瞳だ。
「……奥さん、濡れすぎですよ」
耳元で囁かれた低音に、背筋を電流が駆け抜ける。理性では拒絶しなければならない。けれど、彼の太い指が私の秘所を割り開き、愛液で重くなった下着をずり下ろした瞬間、鼻腔をくすぐったのは、夫からは決して感じることのない、荒々しく危険な雄の匂いだった。その匂いが脳髄を痺れさせ、私の中に眠っていた「女」の部分を強引に引きずり出していく。
彼の手つきは乱暴で、それでいて熟れた果実の扱いを心得ていた。夫以外の男に肌を許しているという背徳感。それが最強の媚薬となり、身体の奥底から熱い疼きがとめどなく溢れ出してくる。いけない、これ以上は戻れない——そう思うほどに、期待に震える私の肉体は正直だ。
ソファーに押し倒され、露わになった太腿が彼のスーツの生地と擦れ合う。冷房の効いた室内のはずなのに、肌と肌が密着する部分は火傷しそうなほど熱い。理性の箍(たが)が外れる音がした。
「夫には……こんなこと、されたことないのに……」
口から漏れたのは、拒絶ではなく懇願にも似た甘い嬌声。罪悪感と快楽が入り混じる泥沼の中で、私は自ら腰を浮かせ、見知らぬ男の楔を、その渇ききった胎内へと迎え入れていた。

